はじめに|地震が多い日本で注目される「制震」という考え方

日本に暮らしていると、地震のニュースを見るたびに「わが家は大きな揺れに耐えられるだろうか」と気になる方は多いのではないでしょうか。2024年の能登半島地震をはじめ、各地で大きな地震が相次ぐなか、住宅の地震対策への関心はこれまで以上に高まっています。
地震対策と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは「耐震」だと思います。一方で、近年注目されている「制震」については、言葉は耳にしたことがあっても、その中身まではあまり知られていないかもしれません。耐震とどう違うのか、何のために組み合わせるのか、はっきりとはイメージしづらいところがあります。
その制震の技術のひとつに、「粘弾性制震テープ」と呼ばれるものがあります。名前だけではイメージしにくいかもしれませんが、地震のエネルギーを吸収し、建物への負担を抑えることを狙った部材です。この記事では、まず耐震と制震の違いを整理しながら、粘弾性制震テープがどのようなものなのかを順に見ていきます。
地震対策は「耐震」だけで十分?
「耐震等級の高い家なら大丈夫」と考える方は少なくありません。耐震は住宅にとって欠かせない対策ですが、その役割を正しく理解しておくと、地震への備えをより立体的に考えられるようになります。
耐震住宅とは何か
耐震とは、柱や梁といった構造材と、壁をつくる面材を金物などでしっかり固定し、建物の強度を高めて地震の揺れに耐えようとする考え方です。建物そのものを頑丈につくり、揺れに耐えられるようにする考え方です。
ここで知っておきたいのが、建築基準法の耐震基準が主に何を目的としているか、という点です。耐震基準は、大きな地震が起きたときに建物の倒壊を防ぎ、「人の命を守ること」を主な目的としています。これは住宅に欠かせない基本性能であり、その重要性はこれからも変わりません。地震対策を考えるうえで、しっかりした耐震性能はまず前提となる土台です。
そのうえで押さえておきたいのは、耐震基準が第一に守ろうとしているのは「人命」であって、地震のあとも建物がまったく傷まないことまでを目的としているわけではない、という点です。倒壊を防ぐことと、建物が損傷を受けないことは、必ずしも同じではないのです。

繰り返しの地震で住宅に起こること
もう一つ大切なのが、「繰り返しの揺れ」という視点です。地震は一度きりとは限りません。本震のあとに余震が何度も続いたり、住まいの長い年月のなかで複数の地震を経験したりすることは、日本では珍しくありません。問題になるのは大きな地震そのものだけでなく、そのあとに繰り返される余震や長期的な揺れの蓄積です。
揺れを繰り返し受けると、構造材と面材をつなぐ接合部などに少しずつ負担がかかり、緩みが蓄積していくことがあります。こうした負担が積み重なると、同じ程度の揺れでも建物の動きが少しずつ大きくなっていく可能性が指摘されています。新築のうちは揺れの影響を受けにくいとされますが、繰り返しの地震によってダメージが蓄積することがある、という点は知っておきたいところです。
言いかえれば、「一度の地震に耐えられたから、次も同じように大丈夫」とは限らない、ということです。では、繰り返しの揺れを考慮するには、耐震に加えてどんな備え方ができるのでしょうか。揺れに「耐える」のが耐震だとすれば、揺れのエネルギーそのものを「吸収する」という発想が、次にご紹介する「制震」です。
粘弾性制震テープとは?
前の章で、制震とは揺れのエネルギーを吸収して建物への負担を抑える考え方だとご紹介しました。制震にはいくつかの方法がありますが、そのひとつが、今回のテーマである粘弾性制震テープです。ここからは、この技術がどこから生まれ、どのような仕組みで働くのかを順に見ていきましょう。
高層ビルの制震技術を住宅向けに応用
粘弾性制震テープのルーツは、実は高層ビルにあります。高層ビルでは、地震や強風による揺れをやわらげるために「制震ダンパー」という装置が組み込まれることがあります。そのダンパーの中で揺れのエネルギーを吸収する役割を担っているのが、「粘弾性体」と呼ばれる材料です。
粘弾性体とは、少し聞きなれない言葉かもしれません。ごく簡単にいうと、ゴムのように弾んで元へ戻ろうとする「弾性」と、水あめのようにねばってゆっくり変形する「粘性」、その両方の性質をあわせ持った素材のことです。力が加わると、ただ跳ね返すのではなく、ねばりながら変形して力を受け止める——この性質が、揺れを吸収するうえで役立ちます。
粘弾性制震テープは、この高層ビル用の粘弾性体を、木造住宅でも使えるように両面テープ状へ加工したものです。厚さは1mm程度と薄く、構造材と壁の面材のあいだに挟み込んで使われます。大きな装置を据え付けるのではなく、テープというかたちにすることで、住宅の現場でも扱いやすくしたわけです。
建物の「ズレ」を利用して揺れを吸収する仕組み
では、この薄いテープがどのように揺れを吸収するのでしょうか。鍵になるのは、前の章でも触れた建物の「ズレ」です。
地震で揺れると、柱や梁は平行四辺形のように変形しようとし、壁の面材はもとの形のまま抵抗します。この動きの違いから、両者のあいだにはわずかなズレが生じます。これまでの説明では、このズレが釘などの接合部に負担をかける要因でした。
粘弾性制震テープは、まさにこのズレが起きる部分に施工されます。揺れによって構造材と面材がずれると、あいだに挟まれたテープも引っ張られるように変形します。このとき粘弾性体がねばりながら動くことで、地震のエネルギーを吸収するのです。
吸収されたエネルギーは、最終的に熱へと変わります。揺れという運動のエネルギーを、テープが内部でわずかな熱エネルギーに変換することで、建物に伝わる揺れをやわらげ、構造体への負担を抑えることが期待できる、という仕組みです。

繰り返しの地震に着目した制震技術
粘弾性制震テープのもうひとつの特徴は、一度きりの大地震だけでなく、そのあとに続く余震や、長い年月のなかで繰り返される揺れまで視野に入れている点にあります。
前の章で見たように、繰り返しの揺れは接合部の緩みなど、建物への負担が少しずつ蓄積していく要因になり得ます。揺れに耐えることを主眼とする対策だけでは、この積み重なっていく負担への備えは十分とは言いきれません。
粘弾性体は揺れのたびにエネルギーを吸収するように働くため、繰り返しの地震に対しても継続して機能することが想定されています。一度大きな揺れを受けたあとも、続く揺れに対してくり返し働くことを狙った技術だといえます。地震のあとも住宅の性能をできるだけ保ちたい——こうした「地震後の性能維持」という視点が、制震技術が近年注目される理由のひとつになっています。

ここまで仕組みを文章で説明してきましたが、テープがどこに施工され、どのように揺れを吸収するのかは、映像で見るとよりイメージしやすいかもしれません。下の動画では、粘弾性制震テープの仕組みが紹介されています。あわせてご覧ください。
粘弾性制震テープの特徴
粘弾性制震テープを住宅に採用すると、どのようなことが期待できるのでしょうか。
建物全体でバランスよく制震できる
粘弾性制震テープの大きな特徴は、住宅の一か所に大きな装置を取り付けるのではなく、建物のあちこちに分散して施工される点です。柱や梁と面材が接する多くの箇所にテープを配置することで、住宅全体で揺れを受け止める考え方になっています。
地震の力が特定の場所に集中するのではなく、建物全体に分散して吸収されることが期待できるため、バランスよく働きやすいと考えられています。「一点で支える」のではなく「全体で受け止める」発想だとイメージすると、わかりやすいかもしれません。
小さな揺れから効果を発揮する
制震というと、大きな地震のときだけ働くものと思われがちです。しかし粘弾性制震テープは、比較的小さな揺れの段階からエネルギーを吸収するように働くと考えられています。構造材と面材のあいだに挟まれているため、わずかなズレにも反応しやすいためです。
気象庁のデータ(2015〜2024年の10年間)によると、観測された地震は年間平均でおよそ2,621回。そのうち約97%にあたる約2,551回が、震度1〜3の比較的小さな地震でした。つまり、私たちが暮らすなかで経験する揺れの多くは、それほど大きくないものだということです。小さな揺れの段階から働く部材であれば、こうした日常的に繰り返される揺れによる建物への負担を抑えることにもつながると考えられます。
気密性能の向上にもつながる場合がある
これは地震対策とは少し離れた、副次的なメリットになりますが、粘弾性制震テープには気密性や水密性、耐水性といった材料としての特性もあります。
粘弾性制震テープを貼る位置は、もともと住宅で気密施工を行う箇所とほぼ重なっています。そのため、わずかな手間を加えるだけで、一般的な気密テープと同等の丈夫な気密層をつくることができ、建物のプランや施工方法によっては高い気密性能を得られます。地震に備えるための施工が、そのまま住まいの快適さにもつながる——そんな副次的な利点も期待できる部材だといえるでしょう。
粘弾性制震テープはどんな人に向いている?

私たちE-HOUSEが家づくりで大切にしているのは、「家族が長く安心して暮らせる住まいを、性能・品質・価格のバランスを保ちながら届けること」です。そのため、見た目の華やかさよりも、耐震・断熱・防音・耐久性といった”見えない性能”をまず重視しています。住まいづくりのパートナー選びでも、こうした見えない部分にこそこだわって選んでいただきたいと思っています。ここでは、その視点から、粘弾性制震テープがどんな考え方の人に向いているのかを整理してみます。
地震への備えを重視したい人
地震の多い地域に住んでいる方や、一度きりの大地震だけでなく、その後に続く余震や繰り返しの揺れまで考えておきたいという方には、制震という発想がしっくりくるかもしれません。
E-HOUSEが地震対策にこだわる背景には、創業者が阪神・淡路大震災を経験したという原点があります。その経験から、耐震等級3や長期優良住宅、災害への備えを大切にしてきました。粘弾性制震テープは、揺れのエネルギーを吸収して建物への負担を抑えることを狙った技術です。「ただ耐えるだけでなく、揺れそのものをやわらげる手立ても持っておきたい」——そうした備え方を大切にする方の価値観に、合いやすい選択肢といえます。
長期的な住宅性能を重視したい人
住まいは、何十年も暮らし続ける場所です。新築時の性能だけでなく、10年後、20年後も住宅の状態をできるだけ保ちたい——そう考える方も多いのではないでしょうか。E-HOUSEが耐震だけでなく断熱・防音・耐久性といった見えない性能を重視するのも、住まいの価値をできるだけ長く保ちたいという、同じ思いからです。
粘弾性制震テープに使われる粘弾性体は、長期間の使用を想定して耐久性が確認されています。たとえば、材料の劣化のうち問題になりやすい「熱による劣化」について、温度を高めて長い年月の経過を再現する促進実験(アレニウス法)では、110年以上にわたって粘着力が大きく変わらず、安定して推移したと報告されています。これは一定の条件下での実験結果ではありますが、長く住む家の性能を長い目で考えたい方にとっては、ひとつの参考になる材料といえるでしょう。
耐震性能に加えて備えを厚くしたい人
繰り返しになりますが、制震は耐震に取って代わるものではありません。しっかりした耐震性能という土台があってこそ、制震を組み合わせる意味が生まれます。建築基準法の耐震基準は、まず人命を守るための大切な仕組みです。そのうえで、「命はもちろん、建物そのものへの負担もできるだけ抑えておきたい」と感じる方にとっては、耐震に制震を足すという考え方が、もう一段の備えとして前向きに検討できる選択肢になります。
ただ、E-HOUSEが目指しているのは、高性能な家そのものをつくることではありません。「いってきます」「ただいま」が毎日くり返される、そんな当たり前の暮らしを長く支えていくこと。それを何より大切にしています。地震への備えも、その暮らしを支えるための手段のひとつです。どこまで備えるかは人それぞれですが、自分たちなりに納得して選べること自体に、価値があるのではないでしょうか。
まとめ|耐震+制震という考え方がこれからの住宅づくりに重要
日本に暮らす以上、地震とまったく無縁でいることはできません。いつ、どこで大きな揺れが起きてもおかしくない国だからこそ、住まいの地震対策は、家づくりで避けて通れないテーマです。
その中心にあるのが「耐震」です。建物を頑丈につくり、揺れに耐えて人命を守る。これは住宅に欠かせない土台であり、その重要性はこれからも変わりません。一方で、繰り返される揺れによる建物への負担まで考えると、揺れのエネルギーそのものを吸収する「制震」という選択肢も、知っておく価値があります。耐震か制震かではなく、「耐震+制震」という組み合わせで考えることが、これからの住宅づくりではますます大切になっていくでしょう。
今回ご紹介した粘弾性制震テープは、高層ビルの制震技術を住宅向けに応用し、建物全体に分散して配置することで、住まい全体で揺れを抑えようとする考え方の技術です。小さな揺れから働き、繰り返しの地震を考慮している点も特徴でした。もちろん、すべての住宅に必須というわけではありませんが、地震への備えや長期的な住宅性能を重視する方にとっては、検討する価値のある選択肢のひとつといえます。
家づくりで大切なのは、新築時の性能だけではありません。その住まいで、長く快適に、そして安心して暮らし続けられること。私たちE-HOUSEは、その後の長い暮らしまで見据えながら、家づくりに取り組んでいます。だからこそ、明確な価格表示や中間コストの見直しを通じて、本当に必要な性能を、それに見合った適正な価格でお届けしたいと考えています。
地震への備えも、その大切な要素のひとつです。ご家族にとって納得のいく住まいづくりを考えるうえで、目に見えない性能にも目を向けるきっかけとして、この記事がお役に立てば幸いです。
出典・参考
- 地震発生回数(年間平均・震度別の内訳):気象庁「震度データベース検索」(2015〜2024年)をもとに集計
- 実大振動実験、促進耐久試験(熱劣化に関するデータ)、製品仕様・適用工法:粘弾性制震テープ製品の製品資料(メーカー公開資料)に基づく
※本記事で紹介した実験・試験の数値は、いずれも特定の条件下で製品の一定の性能を確認したものであり、個別の建物の性能を保証するものではありません。




